まず、本ブログで書いている記事の内容は全て、小学校の教員に向けてであり、対象としている子どもは小学生です。本記事は、一本の記事内容のスリム化と分かりやすさのために、前の記事で書いている「子どもの成長について[原理原則編]」の記事の内容をご理解いただけているという前提で書いていますので、ご了承ください。
人を変えるの一筋縄ではいかない。それは、子どもだからといって例外ではない。しかし、それでも子どもたちに行動を変えてほしい場面がたくさんある。本記事では、子どもたちを変えていく方法として、効果的なアプローチを段階的に行うことで、最終的に大きな効果があるプロセスを提示する。
目次
子どもがその行動を選択する理由
何かが起こった時に、子どもが行動を選択する理由は以下の二つしかない。
・反射的にその行動をしてしまった
・その行動を選択すると何らかのメリットがある
小さい子どもほど、選択する行動は反射的なものであり、思考を十分に働かせていないことが多い。しかし、年齢が上がるにつれて、その行動を選択することによって得られるメリットを考慮して、行動するようになる。
大人から見て、「なぜ?」「どうして?」と思うような行動であっても、その行動が反射的なものでないのなら、その子にとって何らかのメリットが隠れているものである。
子どもの行動を変える基本方針
子どもの行動を変える基本方針は至ってシンプルなものである。それは、以下の通りである。
- 望ましい行動には、その行動を選択した時のメリットをたくさん作る
- 望ましくない行動には、その行動を選択した時のメリットを徹底的に無くす
しかし、メリットだと感じることやものは人それぞれである。人からの賞賛をメリットとする人もいれば、賞賛などなくて良いのでひたすら穏やかに過ごすことをメリットとする人もいる。それに、小学生は目先のメリット(楽しい、嫌など)に流されやすい。そのため、そもそもこういうものにメリットがあるよということを教える(価値づけする)ところからはじめなければいけない。
子どもを変えるプロセス
子どもたちを変えるプロセスは以下の通りである。この3つのステップを踏むことで、段階的に確実に子どもたちを変えることができる。
- 価値づけ
- 価値の確認
- 学んだ価値を行動に移したことによる成功体験
価値づけ
価値づけについての説明
子どもを変える第一段階は、価値づけである。集団に共通した価値(例えば、人に優しくした方が良いなど)を理解させ、浸透させなければ、子どもたち一人ひとりにとってのメリットを本人以外の第三者(つまり教員)が作ることはできないし、当然無くすこともできない。日本円に少なからず価値があるのは(今円安ですね)、日本円の価値を多くの人が理解しているからある。みんながその価値を理解し、信用しているのでとんでもない事態が起きなければ、日本円が急に使えなくなることはない。同じように、一度でも価値を集団に理解させ、浸透させることができれば崩れにくい強固な土台を作ることができる。
この価値づけのプロセスでは、あくまで、価値の理解と浸透が目的であるため、行動の変容が大きくあるわけではないことはしっかりと押さえておきたい。しかし、価値づけをしておくと、指導しなければいけない時に、なぜその行為をしてはいけないのか、どうすればよかったのかを子どもから引き出すことができるようになるため、指導が非常に楽になる。また、価値づけが済んでいれば指導したことに子どもが納得する確率が上がるので、指導後の保護者からのクレームリスクも大きく軽減される。
この価値づけは、理解・浸透をはかる価値の選び方と伝える順番がめちゃくちゃ大切です。いくつかなら同時並行で教えても構わないが、たくさん提示すればするほど、子どもたちはどれが一番大切かわからなくなってしまいます。そのため、矛盾や例外が発生するような価値は後回しにした方が良い。
理解・浸透させる価値の順番は学級の実態によって大きく異なる。目標とする姿は学校や学級によっても違うと思います。そこで、勝手にどんどん良いクラスになる目指すべき学習集団の姿を提示するので、それをヒントにして教えるべき価値の順番を決めてほしい。(下に私ならどうするかも書いています。)
勝手にどんどん良くなる学習集団になる二つの状態
・全員に活躍する場所がある状態(本人が、活躍していると実感していなければいけない)
・集団を良くするために頑張った人ほど得をする状態
上記の二つの状態を作ることができれば、クラスは勝手によくなる。子どもたちが、勝手に前向きに良いクラスになるように働きかけていってくれるようになる。
私が真っ先に押さえている価値は(「子どもたちに最初に伝えるべきこと」に伝え方や目的含め詳しく書いてる)は「①一人ひとりの成長」「②みんなの安心・安全」としている。この価値は、非常に汎用性が高く、あらゆる事象に対応可能であるため、おすすめしている。「子どもたちに最初に伝えるべきこと」では、学級びらきの時にこの価値づけをすることを勧めているが、最近になって学級崩壊したクラスの理科専科(担任ではなく理科だけ教える教員)を担当した時に試しにやってみたら見事に効果があり(理科だけ荒れていないらしい)、クラスを立て直すときも効果を期待できる価値であるためおすすめしたい。
価値づけの分類とバランス
価値づけは以下の2種類に分類できる。
- 「〜した方がいいよね」という何かを目指すような前向きな価値づけ
- 「〜しない方がいいよね」という制限をかけるような後ろ向きな価値づけ
基本的には、前向きな価値づけの割合を多くし、後ろ向きな価値づけはできる限り減らす(多くて2割程度)ようにしてほしい。
価値づけで有効な指導法
価値づけで有効な教材や指導法には以下のものがある。記載の順番は効果のある順にしています。
- 学級びらき時に伝える(2〜4つまで)
- 教えたい価値を実際に行動にうつしている子をみんなの前でほめる
- 動画教材(NHK for school、youtubeなど)
- 絵本、紙芝居、教えたい価値を含んだ創作したお話
- 教師からの講和(必ず簡潔に)
再度お伝えするが、この価値づけの段階で子どもの行動が変わることはほぼない。しかし集団の意識を変えることや、指導を入りやすくすることができる。
価値づけとして選んではいけないもの
価値づけでは、具体的な行動を子どもたちに提示してはいけない。
例えば、「廊下を走ってはいけない」という価値づけがなぜ良くないかというと、この価値づけでは、子どもの行動を変えられるのは、たった一つだけである。また、具体的な行動に対する価値づけは、子どもたちの思考が入らないため、子どもの思考力も育たない。
いくら段階的に子どもの行動を変えられるとはいえ、100個も200個も価値づけできるわけではない(1年に登校する日数は200日程度しかない)。価値づけできるのは1年間で10個ほどです。しかし、実態にあった価値を選択すれば数個の価値づけが行動に移せるようになるだけで勝手にどんどん良くなる学習集団をつくることができます。
価値づけとして選択すべきものの例を以下に示す。子どもたちが具体的な方法や行動を考える支援になるようなもの選択してください。
- 学校はみんなが成長するための場所
- 学校はみんなが安心・安全に過ごすべき場所
- みんなが安心・安全で成長できるなら、楽しいことができる
- みんながバランスよく行動を変えると必ず良くなる
- 学校を楽しくするのは自分たち
- できないことは成長のもと
- 成長は少しずつ、一つずつ
- うまくいかないときはやり方を変える
- 友だちは対等
- ふつうは人によってちがう
- 人とちがっていいふつうとちがってはいけないふつう
- 自分のことを後回しにした方がはやくできる など
価値の確認
子どもを変える第2段階は価値の確認である。価値の確認では、教えた価値について、子どもたちにその必要性について考えさせたり、教えた価値を使って具体的な方法を考えさせたりする活動である。
例えば、「成長は少しずつ、一つずつ」という価値づけを子どもたちにしていたとする。価値の確認の段階では、なぜ「成長は少しずつ、一つずつ」がいいのかを子どもたちに考えさせ、発表させる活動をする。しっかりと価値づけができていれば、多くの子が「急にできないことができるようにはならないから」と答えてくれる。そう答えてくれるようになったら、「じゃあ成長を少しずつ、一つずつにするために、みんなは、何をする?」ときくと、「頑張ってたら、待ってあげる。」、「手伝ってあげる。」、「簡単なやり方を教えてあげる。」と自分たちがとる具体的な行動を考えられるようになる。子どもたちは自分で考えた方法は教えられた方法より実行する可能性が高い。もしこの活動の後、具体的に行動に移している子を見かけたら、ものすごく褒めてあげてほしい。
学んだ価値を行動に移したことによる成功体験
子どもを変える第3段階は「学んだ価値を行動に移したことによる成功体験を経験させる」ことである。これができれば、その価値を今後、子どもたちはとても大切にするようになり、行動に移す子が爆発的に増える。そうなると、学んだ価値づけに基づいて行動に移さない子の方が少数派になり、最終的にほぼ全員が行動に移すようになる。
やり方としては、教えた価値を使うとクリアできたり、楽しくできるような授業や、ゲームを考え、実行させる。必ず成功できるように緻密に計画を立てなければいけないし、1回目は支援的な手立てがたくさん必要であるが、成功すれば子どもたちは集団として、大きく成長を見せる。一度でも価値づけによる成功体験を経験すれば、2回目からは子どもたちが自分たちで何とかしようとするようになる。また、10月以降であれば、学んだ価値を行動に移さなかったことによる失敗体験を経験させることで、学んだ価値が大切であることに気づかさせる授業をしても良い。
まとめ
本記事では、子どもたちを変えていく方法として、効果的なアプローチを段階的に行うことで、最終的に大きな効果がある指導プロセスを書いた。人を変えるの一筋縄ではいかない。しかし、本記事の指導プロセスの効果は、自身の学級だけでなく、アドバイスさせてくれた若手の先生たちの学級でも再現できた。どんどん前向きに変わっていく子どもたちの姿を本記事を読んでくださった方にも体験してほしい。
学んだ価値を行動に移したことによる成功体験を経験させるための、具体的な授業やゲームについては、問い合わせ等で受けた教えたい価値に基づいて、今後書いていこうと思う。