教育現場のことは、教員が一番の専門家であるはずである。しかし、TVをはじめ様々なメディアで教育現場について、多様なバックボーンを持つ人が独自の価値観を元に教育に関する議論をしている。議論の場に教育現場で実際に働く教員がいないことさえある。しかしながら、そもそも、教育現場について、色々な立場の人が議論していることに疑問を感じないでしょうか?そういった仕事は世の中にあるだろうか?IT業界、医療業界、メディア業界、配送業界など色々な業界が世の中にあるが、専門家とされる人に質問することはあっても、同じ知識量があるかのように話をすることなどあるでしょうか?しかし、教育業界は特殊である。なぜか誰もがあたかも専門家であるかのように、色々な人が意見できる(それが悪いわけではないが)のである。小学校の先生は間違いなく、小学校教育の現場においては専門家である。にも関わらず、教育に関する議論で、保護者と対立してしまい、残業が増える若手やベテラン教員を間近で何人も見てきました。本記事では、教育現場でこのような問題が起きる理由を独自に分析し、実践して成功した方法を共有したいと考えています。保護者との不毛な争いから解放され、教職員がより平和で充実したアフターファイブを過ごせるよう、全力でこの身を投じたい。
目次
なぜ教育論は誰もが議論できるのか?
なぜ教育に関しては多くの人が議論できるかというと、多くの人が何かしらの教育を受けた(もしくはした)経験があるからである。そして、それぞれの人にその教育を受けた(もしくはした)時に何かしらの成功体験や失敗体験がある。そのため、自分が受けて良かった教育や、自分が受けて良くなかった教育について、誰もが自分の主観で論じることができるのである。他人の成功体験や失敗体験は否定することは難しい(否定する必要もないが)。そのため、真っ向から教育に関して話し合うと散々時間を費やしたにも関わらず、「いろんな考えがあるよね。」、「みんな違ってみんないいよね、世界はPEACE⭐︎」で終わってしまうのである。多様性理解が求められる現代社会において、それはそれで大事な時もあるとは思う。しかし、趣味で保護者と話し合いをするわけではないはずだ。あくまで仕事として話し合うわけであるから、話し合いが終わった後には何かしらの合意形成を図ることが望ましいのではないでしょうか。
そもそも、教育論に正解はあるのだろうか?
そもそも、教育論に正解はあるのだろうか?教育論の世界には多様な立場や理論が存在します。そのため、有力だとされるもの中にも相反しあうものがあります。そもそも、現在実施している教育の効果はいつ評価(2年後?3年後?10年後?)できるのだろうか?そもそも、何の指標(経済?幸福度?)で評価するのだろうか?教育論については、無限に議論の余地があると思います。議論が大好きな方は大いに楽しんで議論をすれば良いでしょう。しかし、そうでない方はその無限に議論の余地がある話に持ち込まないことがあなたの大切な限りある時間を趣味などに有効活用していただくために重要なのである。
なぜ保護者と議論合戦になるのか?
自分が詳しいと思っている領域や分野において、人は話をしたい生き物である。保護者は、自分の子の専門家である(少なくともそうありたいと思っている保護者はかなり多い)。そこに、土足で踏み込むようなアプローチのかけ方(保護者に対して「あなたは分かっていない」と捉えられるような発言)をしてしまうと、戦いに突入する。つまり、どちらの方がその子を知っているか合戦に突入する。戦いに突入したら最後、正解のない教育論の世界で無限の議論をしなければいけなくなる。それで終わればまだいいが、保護者から「あの先生は分かっていない」ときっちり信頼まで失うのである。信頼を失うということは、些細なことでクレームが来るようになるということである。つまり、仕事が増える可能性が増えてしまうのである。
保護者に専門家として信頼される方法
保護者と話をするときは、目的を明確にしよう
まず、理解すべきことは、学校から電話がきて、その内容が自分の子のマイナスな情報であるとき、保護者は基本的に負の感情を持つ(「ありがとうございます」となる人は少ない)ということである。
しかし、子どもたちが学校でしてしまったことに関して、その子のお保護者に電話をしなければいけないことは多々ある。なぜなら、管理職や生徒指導担当の先生から「保護者にも連絡いれといて」と高い確率で言われるからだ。電話したいわけでもないのにかけているからだとは思うが、大多数の教員が電話の最後の方で「お家の人にも知っといてもらっておいた方が良いかと思って」と伝えている。保護者の多くは自分の子どものした悪行など知りたくない。つまり、その電話は保護者にとって気持ちの良い電話ではないだけでなく、先生が電話をかけてきた目的もよくわからないのである。
では、どうすれば良いかというと、知ってもらった先にある目的を伝えるのである。目的と言っても何を目的にしてもいいわけではない。話をする目的は、その子の心身の成長に関わること、その子や保護者のメリット、電話しなかった場合に起こりうるその子や保護者のデメリットにしよう。
例1 その子の心身の成長に関わることを電話の目的とする伝え方
「Aくんは、今回のことですごく反省していて、今度は、○○な行動が取れる人になりたいって言っていました。Aくんがしてしまったことを次につなげられるよう、Aくんの成長のために、今回よくなかったことと、次どうするかについてお家の人からも話をしてあげてもらいたいです。」
例2 電話しなかった場合に起こりうるその子や保護者のデメリットを電話の目的とする伝え方
「この件は、他の保護者さんも知っています。過去の事例ですが、参観の時に相手の保護者さんと対峙された際に、自分だけ知らなくて嫌な思いをされた保護者さんがいらっしゃったので、お電話させてもらいました。」(この伝え方は、かなり有効である)
良いことの連絡を保護者にしておこう
専門家というところからは、少し外れるかもしれないが、他のどの方法よりも保護者から信頼を得る手段としての効果が高い。どうするかというと、何かが起きる前に、その子の良いところや学校で見られたすてきな姿を保護者に連絡(電話や連絡帳を使って)しておくのである。この方法をとっていた職員は、ほとんどいなかったが、他のどの方法よりも効果が高かった。良い連絡をしておくと、悪い連絡をするときに、『この先生は良いところもちゃんと見てくれている。』『自分の子どものために言ってくれている』と保護者に思ってもらいやすくなる。
子どもは失敗する。そして、失敗しても良いはずである。何も苦手なことがない子などいない。であれば、全ての子に連絡が必要な失敗をしてしまう可能性がある。であれば、この方法は一見面倒臭そうであるが、リスクとリターンで考えた場合に、リターンの方が非常に大きい方法であるので、オススメしたい。この方法をとってくれていた新任教師が数多くのトラブルを見事にすり抜けていく姿を見て、やはりこれはいい方法だと思いました。また、この方法はやる人が少ないからこそ効果があるようにも思います。
小学校の先生の専門家としての立ち位置
どの分野でもそうだが、専門家としての立ち位置は必ず相手が調べようがない(もしくは調べるのに多大なコストがかかるもの)領域や分野にするべきである。その分野や領域で相手と話し合えば、相手はあなたの話を聞くことに大きなメリットを感じる。つまり、あなたの話を聞きたいと思います。そうなれば、相手にとってあなたは目的達成のための重要なキーマンとして信頼されます。
小学校の先生は、その子の専門家という立ち位置で立っても、教育論の専門家として立ってもいけない。じゃあ何の専門家として立ち位置を取るべきかというと、以下の通りである。
- その子の学校での様子を知っている専門家
- その子以外や他の保護者の言動を知っている専門家
- 在籍している小学校の歴史や実態を知っている専門家
- 在籍している市町村の小学校の実態を知っている専門家
その子の学校での様子を知っている専門家
その子の学校での様子は、保護者は知り得ない。何かを伝えたい場合は、その子の具体的な言動を用いて伝えよう。その際、楽しそうだったなど、先生の主観になるような伝え方はできる限りしないこと(保護者と信頼関係を築けていたらしても構わない)。伝えた後には、「お家では何か言ってましたか?」「お家では、どうしていますか?」と、お家でのその子の専門家である保護者に尋ねよう。このやりとりを繰り返していくと少しずつ保護者から信頼されていきます。
その子以外や他の保護者の言動を知っている専門家
保護者からの要望を受けらいれられない時は多々あるが、その時にその子以外や他の保護者の言動を活用すると、信頼されてすんなりと納得してもらえることが多い。「そういうご意見もあるかと思いますが、他の保護者さんから〇〇という意見もありまして」や「Aくんはそう言ってるんですね。ただその方法だと、〜が原因で困ると言っている子がいるんです。」などと伝えると、その保護者が知り得ない情報を単に伝えているだけなので、自分の意見が否定されたように保護者は思わない。また、この方法だと教員対保護者の構図にもならないため、怒りの矛先が教員に向く可能性を減らすこともできる。
在籍している小学校の歴史や実態をしている専門家
保護者に何か連絡をするときに、信頼関係が築けていない間は、その小学校で起きた過去の事例(事件や事故など)をうまく使って伝えよう。例えば、学校のルールなどについて納得してもらう場合に過去の事例を用いた説明は有効である。ただし、今までもそうしてきたからという理由は保護者からすれば何の説得力もないので要注意。過去に起きた事件などから、こういうルールになったということを上手く紐つけて話すと保護者が納得してくれる確率が上がる。
「過去に〜していたことで、怪我をしてしまった子が出てから自由ではなく、今の方法をとっています。」など
※ただし、そもそも本当に意味不明なルールはあるところにはある。それは保護者の信頼を失うだけでなく、教員にとっても意味不明なルールを守らせる負担がでかいので即刻辞めた方が良いと思います。
在籍している市町村の小学校の実態を知っている専門家
先生になりたての人(先生になりたての人のために書いてるブログなのに)には難しいが、在籍している市町村の小学校の実態について知っておくとかなり強い。なぜ、本校はこの方法をとっていて、他校はこの方法をとっているのかなどを比較しながらメリットデメリットを織り交ぜて話せるからである。保護者と揉めやすい、いじめ問題などへの対応理由についてもしっかり他校の事例を知っておいた上で話をすると同じ対応方法をとっていても、納得のされ方や信頼のされ方が全く違う。
終わりに
教育論は、誰でも独自の主観を持って話すことできる。そのため、小学校の先生は、教育現場の専門家でありながら、工夫せずに保護者と話をすると、保護者の独自の教育論からなる提案を聞かなければいけなくなる(医者に手術の方法を提案する、患者がいるだろうか?)。最悪の場合、永遠に交じり合うことのない議論に展開してしまうこともある。本記事では、正解のわからない教育論に議論を展開させないために、小学校の先生が専門家として信頼される方法について具体的な話し方を織り交ぜながら書きました。保護者から信頼を得ることができれば、クレームも減ります(保護者からのクレームを劇的に減らす方法)し、余計な残業をする必要がなくなる可能性がかなり上がります。みんなですてきなアフターファイブを過ごせるように頑張っていきましょう。